飲食店は、ロケーションがとても重要だと言われているから、家主と賃貸契約を結び、店舗を借りて商売をしていることが多い。だいたい売り上げの1割が家賃だ。日本フードサービス協会のデーターではそうなっている。
一方、うちの店は、立地は最悪だが、一応、自前の土地に自前の店舗で商売をさせてもらっている。だから、店から自分に対して家賃を払っている。(もらっていてる。)月額27万円。リニューアルしたときに税理士さんからの通達で決まった金額である。ボクが大家で、ボクが借主なのだから、家賃はボクの一存で勝手に決めれそうなものだと思うのだが、そうはいかないらしい。敷地150坪で、ゆうに70坪はある店舗の家賃が27万というのだから、普通では考えられないぐらい破格に安い値段だと思う。
と、今まで思ってきたのだが、最近になって気がついたことがある。今はものすごい不景気で、チェーン店を始め、多くの飲食店が集客のために死に物狂いになっている。なのに、ボクがこうしてのんびりと構えておれるのは、自分に家賃を払っているせいだと気がついたからだ。しかも、破格に安い。他の多くの店と同じように、売り上げの一割もの金額を他人さま(大家)に払っていたら、おそらく今頃はとっくに店を閉めているだろう。へたをすれば、投身自殺でもしていて、この世にいなかったかもしれない。
自殺といえば、じつは去年の3月、修行時代の先輩(3歳上)が首をつって自ら死を選んだ。自分で店をやっていたのだが、どうも商売がうまく行ってなかったらしい。
店をやっていて、お客さんが来ないことほど、つらいものはない、ということは、痛いほどよく理解できるけれど、死と引き換えにするほどつらいことではないから、おそらく借金が返せなくて、家族に迷惑をかけていたんだと思う。
家族に迷惑をかけ続け、きっと苦しかったんだろうなぁーと思うが、ボクはその先輩にいっさい同情はしない。こんなことを書くと、ものすごく冷酷なやつだと思われそうだが、ボクの目から見たら、その先輩は、経営判断の意思決定において、ミスに次ぐミスを繰り返していたのだから、商売がうまくいかないのは、当たり前である。そもそも「辛い」からといって、自殺するような人間に商売をやる資格はない、と思う。そういう人は、“給料をもらう立場”にいなければならない。飲食店においては、特にそうだ。なぜなら、店を作るだけでも、まとまったお金が必要だし、扱う商品が瞬く間に劣化するナマモノだからである。星の数ほどある商売の中で、どちらかといえば難しい部類に入る商売のひとつなのではないだろうか。
その先輩は商売を始める直前、短期間ではあったが、当時、飛ぶ鳥を落とすほどの勢いだったうちの店に研修に来ていた。
そのときに、
「お金には、死ぬほどの値打ちはない。絶対にない。」
ということを
教えてあげればとよかったと後悔した。
店を始める前に一緒に働いた仲間で自殺をしたのは、この先輩で3人目である。(そのうちの一人は命を取り留めたので未遂。)なんと壮絶な世界であろうか。
一方で、うちの店を卒業していった子で、商売に失敗した者は、まだ一人もいない。大変ながらも皆なんとかがんばっているようだ。だけど、もし何かあったら、バカなおつむで考えたって、どうせ埒はあかないんだから、行き詰まる前に相談に来てほしい。ボクが絶対に助けてやるから。
昨日と同じ内容のお刺身を黄瀬戸のドラ鉢に盛る。器が変わるだけで、これだけ雰囲気が変わる。
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