スペインのエルブジが閉店するそうだ。「1日15時間労働を続けてきて疲労困憊(こんぱい)した」というのが閉店の理由らしい。
世間では、創作活動が行き詰ったとか、しこたまお金を儲けたから、このままシカトするのでは、とか、悪く言っている人たちもいるようだが、ボクはもっと素直に受け取っています。美味を追及する料理の世界が、日々どれほど過酷なものであるか、料理に対して、まじめで、かつ誠実な料理人なら皆知っている。
あえてボクの立場から言わせてもらえば、身体をぼろぼろにしながらも、美味の追求と、日々その実現に情熱を燃やす料理人たちがいるおかげで、お客さんたちは、心豊かな時間を過ごすことができるのだ。だから、そういう人たちを、賞賛しろとか、感謝しろとまでは言わないが、シェフ業の現実をもう少し深く理解し、もっと素直な気持ちで、見てやってほしいと思う。
創作に関してもそうだ。単なる思い付きのアイディアや、自分の感性が、そのまま新しい料理になっている間は、たいした苦労はいらないが、それが全部で尽くしたあと、さらに創作を続けていこうと思えば、極限にまで自分を追い込んでいくしかない。これはハリウッドの映画製作であろうと、音楽の作曲であろうと、作家であろうと、みな同じだと思う。日本のアニメの巨匠、宮崎駿さんなんかを見ても、ご自分をとことんまで追い込みながら、映画を完成させていく様子がテレビで放映されていたから、創作活動をしたことがない人でも、なんとなくわかってもらえるのではないかと思う。
美味を創り出す能力というのは、一流アスリートと同じぐらい貴重な存在であることを知ってほしい。人類の文化財産でもあるのだ。
たしかにエルブジは、世界中のコース料理の中でも傑出した多皿コース(20皿)なので、毎日が大変なことは容易に想像がつく。種類をたくさん作るということは、献立を考えるシェフや調理場スタッフにかかる負荷がとても大きくなる。ボクより2歳ぐらい年下でありながら、「やぁーめた」となったのは、そのせいもあるだろう。
それにしても、シェフのフェラン・アドリアはバカ正直な人だなぁーと思う。ボクだったら、口が裂けても言わないと思うから、これほど正直に徹する人であれば、人間的には結構いい人かもしれない。
ボクだったらどう言うかって?
「更なる高みを目指すために、2年の歳月を費やして、新しい店を作ります。」
おもしろくもなんともないなぁー。すみません。
大きな鍋で大根を焚く。風呂吹き大根の仕込みです。
刺身。南紀勝浦の近海マグロ、寒ぶり、一晩熟成のヒラメ。
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