京都の祇園に「千花(ちはな)」という割烹がある。カウンターとテーブル席が一つあるだけの小さな店で、今は息子さんの代になっているが、3年半前に亡くなった先代は、日本を代表する創作料理の第一人者だった。バブルの全盛期には、食べて飲んで一人7万円ぐらいの超高級割烹でもあった。(昨年のミシュランでも三ツ星をいただく。)
もう15年以上前のことになるが、商売を始めて4年ぐらいたったころ、究極の美味とはどんなものか知りたくて、その「千花」さんへうかがったことがある。
席に着くなり開口一番、「今日は名古屋から勉強に来ました。よろしくお願いします。」と先代のおやじさんに伝えた。
「あんさんもプロなら、(何が入ってて、どう作ってあるか、)言わんでもわかりまっしゃろ。」
食べてわからんようなやつに話すことは何もない!と言わんばかりに、思いっきりつき放された。冷たいひとことでもあった。
もうそのころは、二人の息子さんに料理のほうはすべて任せ、カウンターでお客さんの相手をしているだけであったが、全身からほとばしる気迫は、恐ろしいものがあった。こんな人を見るのは初めてであったし、一流とは、こういうものであることをはじめて知った。
その日はそれで終わったが、何度か通ううちにまず女将さんが、先代が若いころ、どれほど仕事に打ち込んでいたか、そして、どんな仕事をしていたか、いろいろ話してくれるようになった。これだけでも非常にありがたかったのだが、あるとき、「千花」さんの名物でもある「ゆばのスープ」をおかみさんが運んできてくれたのだ。
「今はもうほとんど料理を作らないんだけど、今日はめずらしくお父さんが作ったのよ。」
とおかみさんが言った。
ボクはびっくりして、抱きかかえるようにして飲んだ。そのときの味は、15年以上たった今でも鮮明に覚えている。
それ以後、やっと先代のおやじさんが料理の話をしてくださるようになった。きっとかわいそうに思ったのだろう。
ちなみに、ボキューズだったか、ロブションだったか忘れたが、フランスの三ツ星超有名シェフも、十数年お忍びでかよったそうだ。先代のおやじさんが教えてくれた。
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元旦の夜にうかがった店、「千ひろ」さん。祇園の細い路地を入ったところにあります。
「千ひろ」さんと「千花」さんとは、弟さんとお兄さんの関係です。先代がお元気なころは、ともに「千花」の調理場に立たれていました。その後、のれんわけで弟さんが独立されたんです。
ご主人の永田さん。
湯葉のスープ。この日は冷製でした。
お刺身。鯛とトロ。右下は、名物の「塩昆布」。これで鯛をいただく。
白味噌のお雑煮。
八寸。焼き明太子、ゆり根の茶巾、カラスミなど。
太刀魚の焼き物。
ごま豆腐の切り胡麻、胡麻あんかけ。丹波のしめじ。
焼き柿、洋ナシ、オクラの白和え。
煮物。寒ブリ、、白菜、ねぎ。
炒った黒豆のごはん。
飲んじゃった後。いつものオレンジとりんごのジュース。
どうもご馳走様でした。また伺います。
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