店に昨日、むちゃくちゃ変なやつが来た。そいつは一人でやってきて、座敷に陣取り、すぐさまおやじを呼べと言った。おそらく、ゆすり、たかりの類のチンピラやくざであろうと思った。ボクはほとんど客席のほうへ出ることはないので、客席責任者、かんたろう一人で対応することができるかどうか、しばらく様子を見ていた。しかし、おやじを呼べと執拗に言ってると言うので、仕方がない。座敷にまで出て行った。
その変なやつは、最初から高飛車だった。メニューを見て、まずそのメニューにケチをつける。アラカルトがないことにも文句をつける。そうとう威圧的な態度だ。それで結局、三品ぐらい料理を出すことで、そのへんなやつと合意した。
一品目を出した。そうしたら、すぐさま「料理が死んでいるからおやじを呼べ」ときた。それを無視して、二品目を出したら、「こんなもの食えるか」と、つき返されてきた。三品目は八寸を出した。「こんなもの京料理じゃねえから、おやじを呼べ」と、またしつこく言う。
じつは、これにはちょっとショックだった。料理人というのは、自分が作ったものを根底から否定されることに、これほどまでにショックを受けるのか、といまさらながら始めて知ったのだ。仕方がないので、座敷に伺った。そうしたら、座卓の上には、ほとんど食べずにくちゃくちゃに引っ掻き回された八寸の皿があった。そして、やはり威圧的な態度で料理の文句をたらたらと言ってくる。はじめは、神妙な面持ちで聞いていたが、だんだん腹が立ってきて、ついにボクの口から言葉が出た。
「ねぇ、おとうさん。一生懸命作っているのがこの皿を見てわからんのか。人が一生懸命作ったものをこんな風に引っ掻き回して、失礼だと思わんのか。」
「この値段で、これほどの料理を出せる店が名古屋にあるんか。他の店に比べたら、うちはよっぽどましだぞ。そう思わんか。」
(他にもお客様がいたので、)静かな口調であったが、そのときのボクの目は、昔やんちゃをやっていたころのキッとした目になっていたと思う。変なやつの態度が変わり、「いい目してるなぁー。」と言った。ボクはさらに言いたいことだけ言って、調理場に戻った。その変なやつは、そのあと、ちゃんとお代を置いて帰っていった。
やれやれと思っていると、また来た。またなにか文句を言いにきたのかと思ったら、なんと今度は、「よかったらこれを食べてくれ」と鮎(養殖)を2匹置いて帰っていった。むちゃくちゃ変なやつだったが、なんか憎めないところがあるなと思った。
ところがである。しばらくしたら、なんと!また来やがった。今度はカウンターに陣取り、またいちゃもんをつけてくる。仕方がないので、カウンターへ行くと、赤ワインを飲んでいて、それがカウンターに少しこぼれていた。おそらくかなり酔っ払っているのだろう。しかし、このことがボクの怒りに火をつけてしまった。なにしろうちのカウンターは、イチョウの白木で、幅、長さともに名古屋で一番の銘木なのだ。そのカウンターに赤ワインをこぼせば、必ずシミがつく。
「このカウンターの白木が見てわからんのか!」
「人が一生懸命作った料理にいちいち文句を言うな!」
「料理を食べるときは、ちゃんと背筋を伸ばして食べろ!」
「俺とケンカして、おまえが勝てるわけねぇだろ!」
興奮していて何を言ったかあまり覚えていないが、そんなことを言ったと思う。今度はカードで支払って帰っていった。
そうしたら、しばらくして、またまた来たのだ。酔いはさめているようだった。なんと今日一日で4回目である。今度は、「おやじと勝負するまでは帰らん。帰ってほしかったら警察を呼べ、」とわめいている。ボクとけんかしたら負けると言われたことが、かなりシャクにさわったようで、酔いを醒まして、ボクとケンカしに来たのであった。
長くなったので、あとの話は、明日にします。本当にへんなやつでした。(^^ゞ
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