味の好みは十人十色と言うが、
ボクがこれまで料理を作ってきた感触で言えば、
ウマいものは、誰が食べても絶対にウマい。
ただ世の中には、
味のわかる人と味オンチの人がいるから、
それは味のわかる人という前提で言っている。
味のわからない部類に入る人は、
美味しいものを食べても、
それを理解することができないと思う。
それでも、その人なりにおいしいと
感じる食べ物があるはずだから、
その人に見合ったレベルの美味しさで満足している。
しかし、そうした人が美味しいとすすめるものは、
味のわかる人から見れば、
とんでもないものを美味しいと言ってることが多い。
味覚についての統計的な比率はわからないが、
ある大手食品会社の社長によれば、
味のわかる人が4割で、味オンチは6割だそうだ。
これは少し大雑把過ぎる分け方で
あまり説得力がない。
実際には、100点満点のテストのように、
あなたの味覚は65点だとか、
あるいは15点とか、
もっと細分化することができるのではないかと思っている。
そして、この味覚というのは、
生まれもった才能かといえば、そうでもない。
後天的に十分獲得することができる能力
ではないかと思っている。
そのためには、
ます世の中のありとあらゆる美味を知ることである。
そして、そのための万金を惜しまないことも大切だ。
それくらいの覚悟があれば、
すくなくとも味のわかる人間の端くれにはなれるだろう。
ただし、味がわかる人間と味オンチ、
どっちが幸せかというと、それはなんとも言えない。
味オンチは何を食べても美味しいだろうし、
これはまずいと不満に思うことも少ないので、
食事のことでつらい思いをしないですむ。
そのかわり味がわかるようになると、
しょっちゅう不満が口をついて出るようになるが、
美味しいものを食べる楽しみもあるから、
そうでない人より楽しみがひとつ増えたことになる。
だから、味に敏感な人は自然と食べることに
興味がわき、美食家へとなっていく。
味のわからない人は、
食べることは空腹を満たすことであって、
それ以上の興味がない。
マクドナルドや餃子の王将に人がいっぱい
入っているのは、懐具合ももちろんあるが、
それだけ味オンチが世の中にたくさんいることになる。
味オンチの比率は、昔よりもずっと増えて、
いまや圧倒的多数を占めているのではないか
と驚くとともに少し寂しくなる。
食の大家、大食通の邱永漢さんの食べ物エッセイ。
「お金儲けの神様」とも言われている。
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