健康ブームのおかげで、塩分、糖分、脂肪、コレステロールなどなど、人間の身体にとって必要なものが、まるで有害物質のような扱いを受けています。
『敵に塩を送る』という言葉があります。上杉謙信が、塩不足に悩む宿敵武田信玄に塩を送って助けたという故事から、「苦境にある敵を助ける」という意味なのですが、これだけ塩分が嫌われるようになると、「敵に毒を送る」という意味も付け加えなければならない。
糖分というのは、誰にとってもおいしく感じるものです。この糖分は、動物のエネルギーそのものだから、人が進化の過程で、必然的に美味しく感じるように遺伝子に組み込まれたのだと思います。
脂肪もまた、エネルギーを蓄えるために重要です。だから、やはり美味しく感じます。これもまた、いくたの食糧危機を乗り越えてきたホモサピエンスが、進化によって、その仕組みを獲得し、美味しく感じるように身につけてきたものなんだと思います。
コレステロールは、血管を補強するために重要な役割を果たし、卵、タラコ、明太子、イクラ、キャビア、カラスミなど、コレステロールが多い食品は、完全栄養食品であることが多い。
これもマズイわけがありません。同じように進化の過程で、遺伝子に組み込まれたのでしょう。
ところが、21世紀。
ついに人類は、舌で感じる美味しさを少し犠牲にしても、健康という魅力に勝てなくなった。カロリー表示が当たり前になり、ヘルシーというフレーズが、何よりも勝るものとなった。
大手メーカーが作る飲料のほとんどは、砂糖なんてもう入っていない。カロリーがない人口甘味料が主流を占め、カロリーゼロを自慢げに宣伝している。
ナタデココ、こんにゃくゼリー、アロエ、寒天・・・
栄養のないものが、一時的に流行しては、消えてゆく。
結局、「ヘルシー」という新しい美味しさが、ここに誕生したのだと思うしかない。
今から約750年前、
曹洞宗の永平寺を開いた道元禅師は、
「淡味」というものを発見した。
典座教訓という本の中で、
『ものには酸味、苦味、辛味、塩辛味、
甘味の五つの味があるが、
一番大切にしなくてはならないのは
「淡味」であって、これを加えて六味とするべきだ。』と書かれています。
この「淡味」というのは、
調味料による濃厚な味ではなくて、
材料そのものからにじみ出てくる旨味、
あるいは、滋味のことです。
もし、道元禅師が今の時代を生きていたら、
『ものには酸味、苦味、辛味、
塩辛味、甘味、淡味の六つの味があるが、
一番大切にしなくてはならないのは
「ヘルス味」であって、
これを加えて七味とするべきだ。』
と言わなければなりません。
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